2010年6月9日水曜日

なぜ日本市場が重要か: iPad騒動, クラウドコンピューティング, そしてソーシャルインテリジェンス

編集者注記: Marc Benioffはsalesforce.comの会長でCEO、大の日本好きだ。彼は、スタートアップのファウンダやテク企業の役員は全員、大の日本好きになるべきだと考えている。このゲスト記事で、彼はその理由を説明する。内容は、彼の最近の日本出張から得た見聞と考察だ。
私は過去3週間、日本で暮らしていたから、この国にiPadの発売がもたらした狂喜乱舞を見逃すはずがない。この新しい”マジカルな(magical)”コンピュータ*に、これほどの需要があるなんて、信じられなかった。なにしろ日本は、世界でいちばん人気の高いPCの一部を開発した国なのに、それが今では、どこかよそで設計されたiPadをあがめている。iPadは、高貴な賓客のように迎えられている(日本の経済誌や技術誌の約半数が、表紙にiPadを載せたそうだ)。今年世界中でiPadが1000万台売れるとしたら、そのうちの50万から100万は日本だろうね。〔*: magical, Steve JobsがiPadに関して多用した形容詞。〕
日本に長く滞在した理由は、日本がsalesforce.comの世界で二番目に大きな市場になったからだ。われわれは、日本人がクラウドコンピューティングを好むことを知った。それは、ソフトウェアが、その導入に余計な負担がなく、どこで使っても均質で、しかもアップグレードの手間も要らないからだ。Oracleにいたころの日本の顧客は、いつも特製の”J”製品(英語版を日本語に移植したもの)を待ちこがれ、またその”J”製品のバグフィクスを要求してばかりいた。彼らは長期間、じっと我慢して待たなければならないことが多かった。クラウドコンピューティングは、そういう問題をすべて解決する。日本の顧客は新しいソフトウェアを初日から使えるようになり、バグフィクスも早い。それは、インスタントラーメンならぬ”インスタント満足”だ。
日本で驚いたことの一つは、ソーシャルネットワークの大普及ぶりだ…日本版のFacebook Imperative〔邦題: 企業はFacebookを見習え〕が進行中だ。日本はすでに、Twitterの最大の市場の一つだし、日本独自のソーシャルサイトMixiはものすごくビッグだ。ソーシャルネットワークは、日本人の共同体重視の伝統的文化に合っているので、普及も速かった。また、モバイルがソーシャルネットワーキングを加速する点でも、日本は世界の中で群を抜いている。3Gの高い普及率が、それに弾みを付けるだろう。InfoComのデータによると、3Gが一番普及している国は日本である。ソーシャルネットワークの高いマーケットシェアと、ブロードバンドワイヤレスの普及が、日本のIT産業を強力に後押しするだろう。
日本人がソーシャルなコミュニケーションに対して積極的であることを、私自身が直接的に知る機会があった。ここ数週間は、salesforce.comの企業向けソーシャルネットワーキングサービスであるSalesforce Chatterのデモをしていたのだが、日本人の顧客が合衆国では例のないほど早々と、採用の決断をするのにはびっくりした。合衆国などそのほかの国では、試験や評価にかなりの時間をかける。しかし日本人は、これは企業向けのTwitterやMixiだとすぐに理解し、じゃあうちでも使おう、となるのである。私はかねてから、ビジネスインテリジェンスの次に企業のコンピューティングの重要なテーマになるのは”ソーシャルインテリジェンス”だと感じているが、日本での経験は私のこの感覚を確信にまで高めてくれた*。〔*: social intelligence,ネットからつねに最新の顧客〜市場情報をナマの声として豊富に入手し、ネット上でつねに活発でフレンドリな顧客〜市場との対話関係を維持する、企業の知的指向性。〕
iPadやiPhone 4、あるいはiPodを手にとってみると、そこには間違いなく”designed by Apple in California”と書かれている…この言葉に対して評論家たちの一部は、ほんとは中国製じゃないかとイカっている。でも、ほとんどの人が知らないのは、その部品が世界中各地で作られていることだ。とりわけ重要な部品は、日本、韓国、そして台湾で作られている。たとえばiPod Nanoの場合は、フラッシュメモリは東芝、リチウムイオン電池は三洋とソニー、カラー液晶はシャープと東芝と松下で、製造コストに占める日本製品の比率は81%だ。iPodの生産が可能なのは、世界でもっとも重要な技術…その多くが日本…のおかげだ、というのが現実だ。iPadも、10%は日本製部品だ(そのほかは台湾と韓国のメーカー)。高度に複雑な部品に関しては、最先端の研究開発を行っているのは日本企業であり、だから、Appleなどが採用せざるをえない製品が日本では作られるのだ。
今回の出張で最大の驚きは、当時の鳩山首相が私に会いたいと言ってきたことだ。1時間近く私は、日本におけるクラウドコンピューティングのパワーについて説明した。その後彼は、首相としての最後の仕事として中国のトップと会い、そのあと辞任した。任期の最後の最後というとき、なぜ彼はクラウドにそれほど関心を持ったのか? 彼は、この新技術が日本の将来にとってきわめて重要であることを、周囲に対し信号したかったのではないか。
日本へは、サンフランシスコからの直行便が1日に何度も出ている。しかし、日本市場と日本の顧客が最新の技術と情報を待っているとき、合衆国の連中…起業家やそれにVCたちも…はもっぱら中国やインドの市場を目指している。ソフトウェアなどの重要技術に関しては、中国やインドの市場は日本に比べて桁違いに小さいのに、なぜそうなるのか、私には理解できない。インドや中国は成長率が高いが、今現在の買い手は日本にいる。私の見方はこうだ: 日本を無視することは合衆国で西海岸全体を無視することと等しい。日本の一都市である大阪の経済の規模は、カリフォルニア州よりも大きいのだ。



合衆国に次いで二番目に大きなIT市場である日本を、無視するとしたらそれはまったく非現実的だ。世界は今、抜本的に変わりつつある(私の好きなApple vs. Microsoftの評価額のグラフを見てみよう)。しかしそれでもなお、世界に対し強い影響力を発揮し維持している、従来からのな巨大勢力がいくつかある。起業家たちは、企業向けソフトの売上の85%が、依然として、合衆国、日本、イギリスの三市場からであることを自覚すべきだ。日本を忘れることは、もっとも重要な機会を見忘れることに等しい。そして、この市場で手助けが必要なら、次の私の出張に同行してもらいたい。今の私は、日本に早く戻りたくてたまらない気持ちなのだ。
セールスフォースCEO、日本にノリノリです。

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